「・・・で?只の喧嘩なんでしょう」
「いやなんか本気なんですって!!だってなんかところどころ血飛沫あがってましたし!!!」
「焦ることは無いわよ。流石に殺しはしないでしょうから」
殺しじゃなくてそれ以前の問題でしょう!?と四月一日は頭を抱えた。その様子に仕方がないと腰を上げた理事長が一言
「星史郎先生に頼みましょう」
最早人間なのか、という突っ込みを何人かの生徒がいれるほどの俊敏な動きに、見物人が全員が口を閉じるのを忘れた。
時々鳴るガッとかゴッとか時々あがる赤い液体とかに卒倒した生徒十数名。呻きながら「ファイ先生が・・」と呟いた科学教師のファンが内5割。
体育教師と科学教師の「喧嘩」は熾烈を極めていた。誰も止めるどころか間に入ることすらできない。
そんな中
「せーんせいがたっ」
語尾にハートでも付きそうにそういうと、またもや人間離れした走りでその二人に近づいていく白黒の物体。学園での有数の変態。もとい保険医。
そして体育教師と科学教師に至近距離まで近づくとむりやり二人の口に何かを放り込んだ。
それまでの勢いで保険医まで殴られるのではと女生徒が悲鳴を上げた。が、保険医と口に投げ込まれた何かを即座に認識した二人は、逆に固まった。
ごくり。
シンとした廊下に喉がなる音が2つ響いたかと思うと、科学教師が体育教師にもたれ掛かる様によろめいた。
「・・・黒りんせんせぇ・・。オレ、死んじゃうかもー」
「・・・奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」
二人して飲み込んでしまった「何か」を吐こうか否か迷っていると、
「やだなぁ。健康に害があるわけ無いじゃないですか」
と学園長曰く好青年、その他の人間曰くアブナイ人な保険医はにこりと微笑んだ。
「今まで食ったもんの比じゃないぐらいの苦味があったんだが・・・?」
「オレは砂糖菓子みたいに甘いけど今まで食べたことの無い甘さのやつだったよぉ」
「只の漢方薬ですよ黒鋼先生のは。種や木の根を混ぜたものです。健康にいいんですよ?飲み続けさえすれば」
「星ちゃん先生。『黒ぷー先生のは』っていうのがすごく気になるんですがー。オレは何を飲んじゃったんですかー?」
「まあそれはおいおい言うとして」
“おいおい”?と喧嘩の最中の殺気立った表情とはかけ離れた絶望した顔で、科学教師が呟いた。
「二人とも、理事長室行きですからね」
にっこり、と微笑んで親指でくいくいと理事長室の方へ指を動かす。その様子に教師二人は顔を見合わせてため息を付いた。
「ほら、皆さんも教室へ。次の授業が後24秒で始まりますよ。あ、黒鋼先生とファイ先生の授業のクラスは自習です」
何人かの生徒が反応せずにいたが、保険医の胸ポケットに光る小瓶を見て脱兎のごとく駆け出した。