「アホかーーーーーーー!!」
「ひどい!黒りんた!暴力反対ぃーーー!」
鬼のような形相をした黒鋼から手刀を頭にくらい、涙目でファイが叫んだ。
黒鋼の手が届かないようにとファイが後ろへ下がると、着ているスカートの裾がひらり、と揺れた。
「だって侑子先生が『生徒からの要望が多いから買っちゃった』って!侑子先生の目が『絶対着なさいよ』って!」
「だからって着るな!アホか!?アホなんだな!?っていうか何だ生徒の要望って!!皆アホなのか!?アホなんだな!?」
「黒りんアホアホうるさいー!それにアホっていったほうがアホなんだよぅ」
「それはアホじゃなくて馬鹿のときだ!あぁもう誰かこいつの頭を治してやってくれ!!」
思わずぐぎぎぎぎぎ・・・とファイの頭を力を込めて左右から押すと、うえぁぁあぁ・・と涙声で呻いた。
「いいじゃないですか、似合ってますし」
横で静かにしていたユゥイがそう言うと、じっくり上から下までファイの格好を眺めると意味ありげに、にやり、と笑った。
その瞬間、ごすっと鈍い音を立ててユゥイの頭に黒鋼の手刀が入った。
なにするんですか!?あぁひどいユゥイまでにも手を上げるなんて!!と同じ顔の二人がキャンキャン吠えているが、仕方がないとしか思えない。
というかむしろファイには礼を言ってもらいたいぐらいだ、と黒鋼は小さく溜息をついた。
「なぁに?私が買った服が気に入らないの?可愛いじゃない。中国風ワンピース。あら、もしかして赤よりピンクが良かった?」
「そういうことじゃねぇ!!って平然と窓から出てくんな!!」
ストン、と窓から部屋に降り立つと 侑子はファイの格好を上から下へ眺め、
「グッジョブ!」
と親指を立てた。すると有難う御座いますーとへにゃり、とファイが笑って見せた。
思わず黒鋼が手刀を食らわせてやろうかと構えるが、ちらりと侑子が流し目を送るとぎくっと固まってしまう。
「オイ魔女、何だ生徒の要望って」
「何ってそのまんまよ? 皆が見たぁーいっていうから私が買ってきたあげただ・け。え?皆って誰だ!って?そうねぇ確か・・ひまわりちゃんと知世ちゃんと星史郎先生と・・・」
「おいおいおいおいおい待て何だ最後の一人は!?」
「『メイド服、似合ってましたね。可愛かったなぁファイ先生。僕も欲しいな。なんてね。あはは。』ですって。星史郎先生って好青年よねぇ」
「好青年から『僕も欲しい』なんて言葉が出るか!!」
そんなに怒鳴ってたら禿げるわよ?と侑子が茶化すと、誰のせいで怒鳴ってるんだと思ってんだぁぁぁ!という黒鋼の咆哮が響いた。
そんな音をバックミュージックに、実は髪飾りもあるんだよーほら。とかねぇねぇそのボタンってどうなってるの?とかぽわぽわした会話を双子が話している。
「そもそも何でこいつなんだ?たまには弟にでもやらせりゃいいじゃねぇか」
「あら、皆が望んでて、本人も納得してるのよ?もしかして需要と供給って言葉知らないの?あらかわいそうに。脳みそが筋肉なばっかりに・・・」
うがぁぁぁぁああああああ!と最早動物かと思う程の怒りの雄叫びは魔女には届くこともなく、当人は涼しい顔をしている。
ぽんっ
「・・・仕方がない。そこまで言うのなら〜」
いきなりファイがまるで漫画のように手のひらを拳でたたくと、物言いとは逆にきゃっきゃっと心底楽しそうに双子の弟に自身の髪飾りを付けた。
空色の花に白色の珠がちりばめられているソレは、兄弟揃って恐ろしく似合う。
えぇ?とつけられた髪飾りを触りながら、ユゥイが困ったように眉を下げた。
「って、何でそういう結果になるんだ!?」
「えー?だって黒んみゅが言ったんじゃない。ユゥイなら似合うって」
「俺が!?いつ!!」
「い−まさっきー」
ねー、と小首を傾げて見せるが、同意を求められた弟は驚きのあまり目を白黒させるだけだった。
うん似合ってるーと得意げにうなずくファイと、確かにそうねと笑う侑子と、えぇ?と困って笑うユゥイを見て、
「はぁ・・・・・・」
大きくて長いため息を黒鋼が吐いた。