初めの歌。
ぽかぽかと暖かい日が窓から入ってくる。丁度それがあたる床に横になった俺の横に、もう1人、カイトがまねをするように同じポーズで寝転がっている。ただ線対称のように寝転がっているのでお互いの顔がよく見える。相手の整った顔を見つめながら、俺はいま、うんざりとした表情をしている。なぜかというと、
「すうじのいちはーなぁーに?ふふふのえんとーつ。すうじのにーぃはーなぁーに?お池のはーくちょー」
「何度目だよ・・・・」
そう、向かい合って寝転がっているやつは巷で有名なボーカロイドという、パソコンで作った音楽データを再生する機械人形で、昨日からずっと飽きもせず今さっきの数字の歌を歌っているからだ。たしかに素人なので教えた歌はコレだけだが、ずいぶん昔に聴いて歌詞も曖昧なので所々ごまかしてあるし、なにより退屈なのでいい加減うんざりしている。しかし当の本人は嬉しそうに笑顔でその歌を何百回も繰り返している。
「すうじの・・・・」
あぁまたループし始めた!そう思った瞬間、つい口から
「うっせぇ!」
という言葉が出た。すると微笑んでいた形の綺麗な唇はぽかんというふうに丸い円を作って止まった。くそう、いいよな美男子はこういう表情も綺麗でよ。
「マスターはこの歌嫌いですか?」
「いや、そういう訳じゃないが・・・ほら、飽きるだろ?同じのばっかだと」
飽きる・・・・カイトはしみじみとその単語を呟いて、何かを考え込む風に拳を顎にあてた。いや、そんな重要な語句だったかいまの。おい、と手を伸ばしかけた瞬間
「俺は好きです!」
と満面の笑顔で宣言された。いきなりだったので一瞬、何のことか分からなかったが、歌のことか、と分かって安堵した。すこし残念な気もするが、何故だろうか。
「だって」
ふふ、と嬉しそうに顔をまたほころばせ、カイトは
「マスターにはじめてもらった曲ですから!」
だから俺はだぁーいすきですよ。と笑った。
その表情を見て何だかおれも数字の歌がすこし好きになった。ただ、今度きちんとした歌詞を教えてやろう。
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カイトはちょっとアホの子で可愛いと思います!