目を開けたらそこは、一面に広がる雪だった。

正確には、雪に覆われていた、が正しいのだが、もう地面など最初から無いかのように雪はすべてに降り積もっていて、白以外の色は存在していないので、雪と言っても過言ではない。

その光景を見た瞬間、ああここは夢の中か、と理解した。

現実で今訪れているところは雪の言葉さえも存在しないのではないかという暖かなところだったから。

「黒りんー?」

ためしに人の名前を読んでみるが、どこからも返事は返ってこない。やはり、自分以外人は存在していないようだ。

ふと、今言った言葉を頭の中で認識して、思わず、吹き出してしまう。

その名前は恐ろしいことに、本当に無意識に選んでから。

「ほんっと、愚かだよねぇ・・・」

自分を嘲るように、自然と口角が上がる。

人を愛する資格など、人を踏みにじった自分に有る筈がないのに。

いくら踏みしめても温度を感じない雪が珍しくておもむろにぽすりと座ってみる。

ここが夢だと分かったのは良いが、起きる時間までずっとこの何もない雪の中で過ごすのだろうか、と思うと気が滅入る。

そういえば、夢は渡ることが出来るんだっけ?と思い立って、前を見遣る。ためしに、と思ったのだけれど、

その為には魔力を使わないといけないのだと思い出して、さらに気が滅入る。

なら自分は術を持っているとしても渡れない。

心の中で誰にも聞こえるはずのない舌打ちをして、雪の上に横になる。この調子だと夢の中でも寝ることは可能なのだろうか?という謎を解明できそうだ。

ふと、薄く開いた目の端にちらちらと動くものが見えたので、薄く瞼を開ける。

視界に映ったのは、ここまで積もっているというのにまだ何かを覆い隠そうとしている雪だった。

そっと指先で触れてみるが、やはり冷たさを感じないそれは、ふわりふわりと揺れながら一定の速さで降ってくる。

このまま、

オレもこの白の中に溶け込んでいくのかな。

・・・・・・・・それも幸せの1つなのかもしれない。

時折見る、心の傷を抉る人の影に怯えずにすむのだから。

・・・・・・・・でも

でも、

だけど、

「黒様ーー・・・・」

どうしても振り払うことの出来ない、大きな背中とその暖かさ。

大きな手。黒く硬い髪。鋭い紅い瞳。強く優しい力。低い声。

そのすべてが、

愛しい。

「もうオレ、駄目になっちゃった・・・・」

こんなこと、考えてはいけないのに。こんな気持ちになってはいけないのに。

そう分かっているのに、それでもなお、手を伸ばしてしまう。

馬鹿な自分。

 

口から零れた笑い声は、泣き声と混じって酷く情けないものだった。

雪の中で

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