にこり、と白い唇が弧を描く。完璧な作り物の形。
 
青い瞳も細められて、まるで子供をあやすかのようにゆっくりとした動作でこちらが右腕を掴んでいる手の甲をなぞった。
 
気に食わない。気に食わない。気に食わない。
 
まるでこちらばかりが焦っているような気になる。
 
ファイの唇が、白い。あまりの白さに血の気が失せていって、今に髪さえも白くなって雪に溶けてしまいそうな気がしてしまう。
 
そしてもともと白い肌はすでに血色とは遠いところにある。掴んだ腕だって、少し力を入れれば折れてしまいそうだ。
 
そう思って、きり、と力を込めて握れば、痛みにファイが一瞬目をしかめた。余裕の表情を崩せたことに少しだけ安堵した。
 
痛いよ、と呟くように言われた言葉に耳を貸す気は無い。ファイだってこちらの話を聞く気が無いはずだ。
 
酷く冷たい目でコイツが人を見れるだなんて、知らなかった。いや、知りたくなかった、か。
 
情を灯していたはずなのに、今はもうこんなにも鋭利なものを向けてくる。
 
気に食わない。気に食わない。気に食わない。
 
姫たちがいるときはまだ穏やかな顔をする癖に、二人になると途端に表情を無くす。
 
こんな作り物を俺が受け入れるとでも思っているのだろうか。いや、絶対にわざとだろう。
 
そっちがその気なら、
 
「!」
 
ぐいと掴んでいた腕を思い切り引っ張ってやるといとも簡単にこちらへ細身が倒れ込んできた。
 
くろがね、と空気まじりの声をあげて慌てて黒鋼の胸をどんと叩いたが、まったく動かない。
 
ああ久しぶりに焦った顔を見れた、と考えながら、きつく抱き寄せる。きつく、きつく。
 
少しかがんで、ファイの頭をこちらの首もとへ埋めさせる。ぴったりと密着した肌に、すこしだけ胸が速まった。
 
首元から、飲まないよ、とくぐもった声が聞こえた。意固地にファイは口元をそれから動かそうとしない。
 
その唇の下の、どくどくと動く脈を感じているだろうか。あの東京から一滴も血を飲んでいないファイにとって、食料が目の前にあることはどんな気分なのだろうか.
 
いっそのことこの首筋を噛みきってくれたらいい。
 
のまないよ、のまない・・・・・・。また、くぐもった、しかしはっきりとした声が鼓膜を揺らした。
 
 
 
誰かのために死ねない、と言ったなら、生きてくれないだろうか。
 
 
 
俺の為に
 
 
 
 
してほしい
 
 
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
インフィニと東京の間のほかの世界を想像すると胸が高鳴る。(きりっ

inserted by FC2 system