※桜都国



ざわざわと強く風が吹いた拍子に、まるで空を覆うように沢山の桜の花びらが散った。

それを空のようにファイさんの蒼い瞳がぼんやりと眺める。

あ、空と同じ色。

ファイさんは、水を掬うかのような形でスッと伸ばされた白い両の掌、重なり合った中指の腹に器用に一枚を載せた。

金、青、そして桃が絶妙なコントラストを描く。

それを見て、思わず息をつくのを忘れてしまった。それほどまでに美しい。

一寸ばかり花びらを見つめていたが、まるで、それこそ水を飲むかのように、掌を口の所まで持っていって息を吸い込むのと一緒に花びらを飲み込んだ。

こくん、と白い首の喉仏が小さく動いた。命を体に取り込んだのだ。

その、ファイさんのあまりに自然な動作に誰もまったく反応が出来なかった。

そして何を気にも留める様子も無くまたファイさんが花びらを掌に乗せ・・・・・

・・・・・・

って・・・・


「「「「わーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」」

「え!? 何ー!?」

ほぼ同時に俺とさくらと黒鋼さんがファイさんの手を押さえ込んだ。

モコナは届かなかったらしくファイさんの顔に飛び乗って、むぎゅ、とファイさん苦しげな声が聞こえた。

「モ、モコナー? 危ないよー? んー。どうしたのー。皆」

至極不思議そうにファイさんがこてん、と首を傾げて見せた。あまりに平和な顔に思わず脱力したが、黒鋼さんはそうではなかったらしく手をグーに握って何かを言いたそうにしていた。

「ファイさん! 花びらは食べるものじゃないんですよ。いくらおいしそうでも・・・」

「えー」

 「おいコラ姫。お前花びらの事うまそうとか思ってたのか」

「え? あ! ち、違うんです! 言葉のあやです」

思わず口を滑らしてしまって真っ赤になる姫はとても可愛いが、花びらを食べようとか考えないでください。仮にも姫なんですから。可愛いけど。

「ファイのとこにはこのお花無かったの?」

乗っていたファイさんの顔からのいて、金色の髪にポスリと座りながらモコナが聞いた。

「うん。いやー凄いよねー。こんなに綺麗な色の花があるんだねぇ」

「そっか。でもね、ファイー。知らないものを勝手に食べちゃだめだよ。おなか壊しちゃうかも」

「そうですよ。ファイさん」

「気をつけてくださいね」

「馬鹿みたいな事すんな」

「えぇー。でも、綺麗でしょー?」

「確かに綺麗だけど」

「綺麗だからねーなんかねー」

そういいながら、ふんわりと掌に花びらを載せてファイさんはにっこり笑っていった。



「食べれるかなぁって思ってー」



 



 俺は悟った。

・・・・俺がしっかりしてこの人を見守ってあげないと駄目だ。
 



ゆっくりと隣を見ると、ファイさん以外全員俺と同じ顔をしていた。

 



 「あのねー」

困ったように眉をハの字にさせてファイさんが言った。

「あの花びら食べた日から思ってたんだけどー。もう、よく知らないものとか食べたりしないよー。だからねー」

そこでちらり、と皆を見てから、一息で言った。

「雑貨屋さんのガラスの商品とかに、綺麗って言ったら食べ物じゃないですよって言ったり、

 お花屋さんの前を通ったときにチラチラこっち見たり、

 料理屋さんでわざわざお皿の端っこに付いてる漬物?を食べられますよ!って言ってきたり、

 原っぱとかの外に出てるときに不安げに見ないで欲しいんだー・・・・・・」

いささかぐったりしているように見えるファイさんは、いったそばから雨露にぬれる葉っぱにのったぐるぐる巻きの貝の中にすっぽりと入った変なぐねぐねした生き物(黒鋼さんがカタツムリだと言っていた)に対して、

明らかに食用では無いにも関わらず美味しそうだとかぶちかましたのでその後もファイさんの要求は飲まれなかった。



(3人+1モコナの)意!


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一行全員がバカでも可愛くて死ねる。



 


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