「では、少し湖から離れていてください」
そう言って村人達みんなに微笑むと、魔術師様は湖の上を歩いていく。そして丁度真ん中あたりまで行くと、こんこん、と大きな杖で軽く氷の表面をたたいた。
今年はいつもより寒くて、大事な大事な湖に氷が張ってしまい、とても困っていたのだ。
中央に書を送ってから、まだ2日しかたっていない。それなのに、お忙しいはずの魔術師様はすぐに来てくださった。
魔術師様――――ファイ様は、とても優しい人なのだ。
とても優しくて、とても綺麗で、とてもすばらしい魔術師。彼は小さい頃からそう言われている。
その通り。だと思う。はじめて見たあの日から、ずっと彼はとても優しくて、とても綺麗で、とてもすばらしい魔術師だ。
でも、
一斉にざわり、と周りが動いたので、ぱっと魔術師様を見る。すると、大きな杖を振りかぶっているところだった。
誰かがぽつりと、始まる・・・・と呟いた。
彼の魔法はとても美しいので、一秒でも見逃さないように目を凝らす。
そして、彼が杖を氷へとつきたてた瞬間、
「君も、寒いのかい?」
小さく小さく、そう、聞こえた。
おどろいて、思わず、え?と小さく聞き返してしまった。
今、なんて言ったの?
貴方は昔よりずいぶん笑うようになったのに。
湖の氷にはさまざまな光の文字が躍っている。どこからとも無く、ほぅ・・と感動のため息が聞こえる。
まるで宝石の1つのように輝く氷の上でポツリと彼が佇む。
輝く文字は輪になって、はじけて、また輪になって、と、とても楽しそうに踊りながら量を増していく。
とてもとても綺麗な魔法にとてもとても綺麗な彼。
よく考えたら、この距離だときっと彼の声は私に届かない。
とてもとても綺麗な魔法にとてもとても綺麗な彼。
それでも、聞こえたのだ。
氷の宝石
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先生・・・フローライトの過去編がもっと見たいです・・・