※日本国END
ぴしゃーん、ごろごろ。
誰がどう見たって悪いの一言に尽きる天気を朝一番に見て、知世姫は嬉しげに声をあげた。
そしてそのまま天照の部屋へと向かい、すっと襖を開けると「怪談ですわ!」と元気の良い声で、まだまどろんでいた姉を起こした。
最初のうちは機嫌の悪そうな顔で顰めっ面をしていた天照も、ぴしゃーんと打たれた雷に嬉しそうに頬を緩ませた。
天気が悪い、イコール怪談日和という常識にのっとって、姫君二人はこんな日は忍や兵たちを集めて怪談を披露するのだった。
「今日の怪談には、ファイさんが参加されるはずですわ」
「まぁ。では取って置きを話さなければ」
「でも取って置きが多すぎて困りますわ」
「そうですね・・・」
どうしよう、困りましたね。と頭をつき合わせて話す二人の顔は、言葉とは裏腹に子供のように楽しみで仕方が無い、という顔をしている。
その様子を見かけた蘇摩が、いつもよりたくさんの犠牲者が出ることになるだろう怪談を思って、はぁ・・・と深くため息をついた。
バリバリと空気を裂くような雷の音が30分と止むことなく、姫君の期待通り、そして他の人たちのほのかな希望に反して、怪談が催されることとなった。
ちろり、と目を向けて、部屋の真ん中の席にファイが居ることを確認して、にこり、と嬉しそうに姫君二人は微笑み、その隣に当然のように腰を下ろしている黒鋼を見て、にっこりと黒い笑みを浮かべた。
その二人の様子を見た黒鋼が声をあげる前に、「では始めましょうか」と天照が言った。
瞬間時が止まったかのように部屋が無音になる。
総勢50人は居ろうかというのに、息1つさえ聞こえない異様な雰囲気に身じろぎしたファイに、これまた嬉しそうに知世が微笑んだ。
「・・・これは雨が降っていて湿気た日のことで、」
天照の何の気なしに、というようなしゃべり方が、逆に恐ろしい。
なので十分もすると、泣いて逃げ出す人が毎回出るのだが、今回は半時たっても誰も逃げ出さない。
蘇摩はちろり、とファイを見遣ってみたが、これといって変化は見られない。
つまり、今回の話はあまり怖いとは思われないようだ。
あぁ、姫様はさぞかし悔しがるだろう・・・と声に出さずため息をついたが、ふと、ちろり、と何かが動いたので、目を凝らした。
すると、 黒鋼はもちろん、ファイもほとんど変化が無いのだが、左手でぎゅう、と黒鋼の着物の裾を握り締めている。
多分掴まれている本人はわかっていないであろうほど端のほうなのだけれど、他の人からには丸見えだ。しかし掴んでいることを気づかれないようということに気をとられているためか、そのことには気づいていないようだ。
あぁ、なんというか、もう・・・・
「ではコレで終わりましょう」
ぽん、と天照が手を打つと、はぁ・・・と気を抜いた声があちこちから聞こえて、では、コレにて帰ります、と、部屋にいると怪談を思い出してしまうからなのか、そそくさと人が出払って行った。
そして十分もたたないうちに姫君と蘇摩だけが残された部屋で、
「可愛いにもほどが・・・」
と見事に3人の気を抜いた息まじりの声が重なった。
夏の日に