不思議な音がする。
ぱちり、と目が覚めて黒鋼は大きく伸びをした。時間は多分丑の刻といったところか。
少し乾燥しているが、暖かなこの国はとても過ごしやすく何時もより深く眠ってしまったようだ。忍者としては、だが。
一旦あけた目をもう一度閉じて、不思議な音に耳を澄ませる。何が、何をしている音かを確かめるためだ。
・・・・歌。
どうやら一階の部屋で姫が歌っているようだ。珍しい。こんな夜中に起きているのも、一人で歌っているのも。
歌詞は何なのかは分からないが、鈴が鳴るような、冷えた綺麗な水のような声はとても聞き心地が良い。
でもいくら昼間は暖かかったとはいえ、この時間になると温度差がある。風邪でもひいてしまうかもしれない。
姫が体調を崩すと連動して小僧の動きも鈍るから、と建前を置いて、薄い掛け布団、ブランケットを手に持って姫の居る部屋へ足を向ける。
用は只単に姫が心配なだけだ。
音を立てないように階段を降りる。そして向かいの居間のドアノブを捻りかけた。
でも、捻るより先に姫の歌が耳に入ってきた。歌詞が分かると、おもわずぎくりとしてしまった。
鈴のなるような声で、冷えた綺麗な水のような声で、姫は悲しい歌を歌っていた。
閉じた瞼に、魔術師と小狼のことが浮かんだ。
きっと、姫もそれを思いながら歌っているんだろう。
ぼんやりとぼかした詩的表現は何処と無く彼らを歌っているようだった。
とても悲しい綺麗な歌だ。
姫が歌い終わってから、一、二と数えて黒鋼はドアを開け、風邪ひくぞ、とブランケットを差し出しながら言った。
子猫の歌声、桃色燐火