蜜柑って、いいなぁとしみじみと感じる。今日この頃。

りんごの様にわざわざナイフを持ち出して皮を向かなくても良いし、色がオレンジだからなんとなく可愛らしい。

そう感じながらはむはむと世話しなく手を動かしていると、隣で同じように蜜柑を食べていたユゥイがこちらに手を伸ばした。

顔に何か付いているのか、と不思議そうに顔を向けると、ひやりとした、細い指先が、頬をなでた。

その瞬間、視界が回転する。

頭の上で、ぼてり、と蜜柑が落ちる音がした。

「ユゥイ・・?」

「ファイさ、ちょっと無防備すぎるんじゃない?」

状況を把握してみると、今まさに自分は押し倒されている形になっていた。実の兄弟に。

しかし、こちらを見据える瞳は、自分と同じはずなのに、別の光を放っていた。

「か、ぞくじゃん、オレたち」

「そうだね」

「防御とか、必要ないはずだと、思うんだけどなー」

「そうだね」

「でもさ、防御したほうが良いかなー、と思うんだけど。今のユゥイ」

「そうだね」

直接的ではないが、覆いかぶさるような体勢の相手に、注意を促したが、退く気配がない。むしろ楽しんでいるようだ。

動くことなく顔を見つめる、瞳に、どきりとする。

ねぇ、ファイ」

顔の横にあった右手が、相手の左手に掴まれた。その行動に、内心、焦りを覚えつつも、平静を装って

「なぁにー?」

と笑顔を向ける。この体勢をやめてくれ、と祈りながら。しかしその祈りは伝わらず、今度は左手が?まれる。

相手の息が分かるほど、顔を近づけられる。そして、出てきた言葉が、

「あいつ、誰?」

予想外。

「あいつって?」

「黒い犬」

その言葉でパッと頭に赤いジャージの体育教師が思い浮かぶ。

よく分からないが、自己紹介のときに名前を覚え忘れて、むしゃくしゃしているのだろう。

と無理やりにこの状況とその言葉との関連を自分に納得させて、黒様だよー。と言った。聞いたら退いてくれるのだろう、と淡い期待を込めて。

しかし、手の拘束が解ける様子は無く、瞳が揺らぐ。

頭の中で鳴る、警告音を感じながら。

「ユゥ・・・」

「ムカつく」

瞬間、唇に自分と同じ柔らかさを感じた。限界まで大きくなったユゥイの顔が、また数cm離れる。

まさか。

ぽかん、と口があいたままでいると、狙ったかのようにもう一度、喰らい付くかのように唇が触れる。

やっと現実味を帯びたその状況に、あわてて左右に逃れようともがくが、びくとも動かない。

「料理家って、骨付き肉叩き切ったり、フライパン振ったり、結構筋肉付くんだよ。僕も昔より結構力が付いた」

でもファイは、相変わらず細いね。と耳元で囁かれる。そのぞわり、とした感触に、思わず顔に血が上る。

「なっ」

「弱いんだ」

あははははと、楽しむかのような笑い声を上げる顔を睨むと、

「怒るよ」

と言い捨てた。いつもなら、そこで止まるはず。だったけれど、

その瞬間、ユゥイの目が、不機嫌に細められた。

心臓がどくん、と跳ねる。こんな表情、見たことがあっただろうか。まるで肉食獣のようなこの顔を。

「ファイのその言葉って、いっつも、前に、“お兄ちゃん”が付くんだよね」

「え」

「いっつも、いっつもそうだよね。お兄ちゃんは、お兄ちゃんと、お兄ちゃんが。ファイは」

僕のこと弟としか見てない。吐き捨てるようにそう言い切ると、また噛み付くように顔が近づく。

離れた顔にはさっきまでの凶暴性が薄れて、今にも泣き出しそうな、悲しみが見えた気がした。

「なんで、僕と双子の兄弟なの。同じ性別と同じ顔と同じDNAって壁があって、ファイに、近づけない」

「ユゥイ・・・」

「・・・・・・・・・・・」

ユゥイが立ち上がって、腕の拘束が解かれる。慌てて起き上がるが、相手の長い前髪でよく表情が見えない。

「オレはさ」

反応が無いけれど、どうしても言いたくて、口を開く。

「ユゥイと双子でよかったよ。ユゥイと生まれたときから一緒にいられたし」

思わず片割れを抱きしめたその感触に、なぜかどこか遠くの白い雪を見た気がした。

 

 

 

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あぁもうアレだよ!ドラゴン読みてぇぇぇぇえええ!!!

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