※頭の沸いた黒鋼さんがいるよ!
 
 
 
 
科学準備室で、暑いねぇ、とだるそうにファイ言うと、後ろの髪を掻き揚げた。

 
昼前だというのに気温は三十度を越していて、生徒のいる教室にはクーラーが使われているほどだ。

 
只、職員室以外の準備室や資料室などにはクーラーがつけられていないので、黒鋼とファイがいつも屯しているこの科学準備室は茹だる様な暑さになっていた。
 
そんなことを頭からころりと落とした黒鋼が、一瞬暑がるファイの掻き揚げられる髪からちらりちらりと偶に覗くうなじに、思わず目を奪われてしまった。
 
白いそれに思わずごくりと生唾を飲み込む。
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「? どうしたのー黒りん先生ー」
 
視線に気付いたのか不審そうな目で見てくるファイに、ハッとして思わず焦ってしまう。
 
「別に何もねぇよ」
 
「ホントにー?」
 
落ち着け馬鹿野郎、と心の中で自分を叱咤して黒鋼は冷えた麦茶の入った湯飲みを強く握り締めた。
 
同僚の、しかも男になんて事を考えるんだ、と自分で自分に呆れる。
 
確かにファイはそこいらの女に引け目をとらないほど綺麗な顔をしているし、黒鋼などと比べるとずいぶん華奢だ。
 
しかしそれでも身長は高いし体が薄いわけではない。一回、ファイがシャツの胸元で汗を拭ったとき、ちらと見えた体は決して貧弱なわけではなかった。
 
それを相手に、少しでも反応してしまった自分が恥ずかしい気がして、無言で麦茶をすする。

「あー、購買でアイス買ってこよっかなー……。でもなーもう売り切れてたら只の無駄足だしー」

どうしよう、とじたばた足を動かす様は、何とも可愛い。と考えてまたハッとする。
 
どうやら暑さで頭が沸いたようだ、と小さく首を振った。
 
 

あっついなぁ、とまたファイがだるそうに言う。
 
「言い続けるから暑くなるんだ。少しぐらいは黙りやがれ」
 
「でもー暑いだもんー」

馬鹿か、ファイに向き直り言いかけてから、思わず口が止まる。
 
いきなりファイが女子よろしくリップクリームを塗っていたからだ。
 
する、とキスをする時のように尖らせた唇に、白く細長い指を滑らせるそれはとても官能的で、思わず目を逸らしてしまった。

動きを止める黒鋼に、ファイは首を傾げると、ああ、と言って笑って手の中のリップクリームを振って見せた。

「リップクリームだよー。前買ってあったんだけど、スースーするかなぁって思ってー。開けてみましたー」

黒様せんせーも塗る? と笑うファイに、塗る訳無いだろう、と頭を軽くどつく。
 
大丈夫だ、まだいつもどおりに振舞える。と、何が大丈夫なのかは深く考えず――いや深く考えられず心中で呟いた。
 
ふ、と小さく聞こえないように息を吐いて、ちろりとファイを見て黒鋼がぎょっとする。

「お前、唇になんか色付いてっぞ」

「へ?」
 
んんー?どれどれー、と立ち上がって、備え付けの磨かれたシンクに顔を映すと、驚いたようにファイがなにこれー!と素っ頓狂な声をあげた。
 
リップクリームがまるで口紅でも差したかのようにピンク色になっていたのだ。
 
本人もこれに気付いていなかったらしく、なんでぇ? と指で唇を拭う。
 
ふと机の上の開けられたリップクリームのパッケージの破れ目を合わせて見てみると、塗ると色が変わる!?乙女リップ と薄いピンクの飾り文字で書かれていた。
 
もしやと思ってリップクリームの蓋を取って中身を確認してみると、ファイの口に付いたであろうところが他と違って白ではなくピンク色になっている。
 
唇に触れると変色する仕掛けのようだ。
 
パッケージぐらい見ろよ、と溜息混じりに言うと、侑子せんせー推薦のやつだから、なんか普通のかと思ってた・・・。と情けない声が聞こえた。
 
普通、魔女推薦なら身構えるだろ、とまた溜息を吐く。
 
「これはいただけないねー。あ、でもちょっとスースーはするー」
 
プラマイゼロってことで、苦笑しながらソファーに腰掛けたファイが、でも相変わらずあついーとパタパタと胸元の服を動かした。風を送ろうとしているようだ。
 
背の高い黒鋼からは、白い胸元がチラチラと動かす服に合わせて見えてしまう。
 
その様子に黒鋼の頭の中で一瞬、理事長の、Vネックって色っぽいわよねぇ。露出が絶妙で。と艶やかに笑う顔が浮かんだ。
 
ああ、何だか今、それがすごく分かってしまう。
 
そう思った瞬間、ぶちん、と黒鋼の中で何かが切れた。
 
「……? 黒ぷー先生?」
 
きょとん、と此方を見つめる二つの蒼にそのまま近づいていき、左手でファイの右手首を引き寄せるように掴む。
 
掴んだ腕を支点にして、とさりとソファーに倒す。金の髪が綺麗に散らばった。
 
そしてソファーの前で屈み、ピンク色になった唇を塞ぐ。蒼が驚いてまん丸に見開かれた。
 
「ん!」
 
思わず少し開いた相手の口に、舌を潜り込ませた。片手を金の頭を支えるように後ろからあてがうと、少し力を入れて引き寄せる。
 
口の中で泳いでいた相手の舌を絡めとると、ぴちゃり、と水音が鳴った。
 
「ふ、・・ぁ・・、・・・」
 
深くしてから口を離すと、上気した赤い顔で目を潤ませたファイが口の端を少し濡らしていた。やばいな、と思いながらもう一度唇を合わせる。
 
今度はもっと長くする。舌を絡ませて歯裏をなぞると小さくファイがびくんと震えた。
 
反応がいいので、ためしに、と色々なところを責めてみると、その全てにぴくんと体を震わせる。矢張り反応がいい。
 
つい、と口を離してみると、二人の間に名残惜しげな糸が出来る。
 
目線をあげると、さらに熱っぽく潤んでいる蒼い瞳と目が合った。それににやりと黒鋼が笑うと、そのまま口を下に滑らせる。
 
「あっ」
 
細く白いのどにちろと舌を這わせると、ファイが高い声をあげた。
 
その反応に気を良くして、さらにすこし乱れた服の裾をまくり―――
 
 
がごんっ
 
 
「!」
 
黒鋼の足が下に置いてあった缶の資料入れに当たって、大きな音を立てた。
 
思わずはっとして、黒鋼が言葉を無くす。眼下には服の乱れた科学教師。
 
状況を客観的に考えて、体が思うように動かない。ぱっと掴んでいた手を離す。
 
「あのー・・・・」
 
困ったように眉を下げながらファイが言った。
 
「黒りんたせんせー?」
 
瞬間、黒鋼の顔に一気に血が集まり、脳みそをフル回転させる。だが空回りするばかりで。
 
背中にだらだらと今までに無いほどの冷や汗が流れる。
 
「えーと」
 
自由になった手でぽん、とファイが黒鋼の肩を叩いた。
 
 
 
 
声にならない声で叫んだ体育教師が、帰る!とぎこちなく無理やりな挨拶(?)を済ませ部屋を全力で逃げ出すのに掛かった時間、3秒。
 
少ししてから人口が半分に減った部屋でぽつりと、
 
「黒様せんせー、オレが抵抗してなかったの気付いたかなー・・・?」
 
科学教師が小さく呟いた。
 
 
 
 
 
 
3つの、
 


 

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個人的に原作では二人がきゃっきゃうふふするまでが長ければ長いほどいいですが、ホリツバでは短ければ短いほどいいです^^^^^^^^^

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